整形微課金者の苦悩はこれからだ!

プチとは言わないのかもしれないけれどもちょっとした整形をしている。
私は昔から自分がブスであるということを自覚していたが、顔の不具合をどうにか「クラスのお調子者」というキャラクターで補おうと、無理して明るく振る舞っていた。
具体例を挙げれば、「スクールカースト上位にいる運動部男子と仲良くなり、一緒になって授業中に騒ぐ」だとか「その男子と私とでどちらがより面白いことが出来るかを競ったり」だとか「そんなことをしながらも問題児にならぬよう、教師に気に入られるような言動をとったり」だとか。今思い返せば、そのころの私は俗に言うリア充だったような気がする。
(はたから見ればただの無理したキョロ充だったかもしれないが。)

私の知らない生徒でも私のことを知っていたし、次はどんなバカなことをやらかすんだと期待の目で見られるのもままあることだった。そのことに対し別段プレッシャーを感じることも不快になることもなかった。自分が受け入れられている、好かれていると思いこんでいたからだ。
しかしある日、同じクラスの男子生徒のMをからかって「●●のこと好きなんでしょwねえww告っちゃいなwww」なんてことを●●の目の前で言ったとき、マジで●●に想いを寄せていた男子生徒はカッとなって「うるせえなお前に関係ないだろ!ブス!」とマジなトーンで吐き捨てたのだ。

ブス。面と向かって言われるとけっこうなダメージで、そのときの私はそのまま口をつぐみ、何も言い返すことが出来なかった。そうしてあっけなく私の性格は一気に暗くなった。心の扉を完全に閉ざしてしまった。
授業中に騒がなくなった。男子と面白さを競うこともなくなった。周りは突然おとなしくなった私を不思議に思っていたようだが、少しするとそれを気にする者もいなくなった。
私の性格を変えてしまった男子Mは、私など見向きもしなかった。よほど●●のことで恨んでいたのかもしれない。もしくは、自分の発言など覚えていないのかもしれない。

今日にまで至る私のトラウマを誰かに語れば「そんなこと中学生くらいの年ごろならよくある話だ」「気にしすぎ!男子なんて美人が相手でもブスって言うもんだ」なんてふうな励ましをくれたり意見を述べたりするが、誰がなんて言おうとも、今の私の根本を作ったのはMによる暴言なのだ。
ブスだから、お前には関係ないと怒られる。顔が悪いせいで損をしたのだ。どんなに見た目以外の部分で取り繕っても、結局ブスはブス。私は父親にそっくりな自分の顔が大嫌いだった。そんな大嫌いな顔をMにブスだと指摘され「ああ、やっぱりブスはダメなんだな。可愛い●●とブスな私は大違いなんだな」と痛感したのだ。そうして中学時代の半分は息を押し殺すようにひっそりと過ごした。

高校生になってもブスは変わらない。ただ化粧を覚え始めたことと、長年のスポーツのおかげでスタイルは悪くなく、容姿で貶められることはほぼゼロに近かった。しかし彼氏は出来なかった。Mの一件で、男子への恐怖心をほんの少し抱くようになっていたからだ。
そのころから美しい顔への憧れがどんどん強くなり、綺麗になりたい、可愛くなりたいと思い詰めるようになった。ヴィジュアル系にはまりだしたのもこの頃からのように思える。しかし自分の顔を手術で変えることにはまだ踏ん切りがつかず、いびつな化粧をして学校へ通う日々が続いた。

高校を卒業したころに整形を決意する。どこのクリニックでも安価で埋没法を受けることが出来、さらにそのころに行われていたキャンペーンではもともと安価な金額がさらに安くなっており、この機を逃せないと意気込んでクリニックに赴いた。
しかし医師によれば私のまぶたは脂肪が厚く、希望する二重のラインは埋没法では作れないということだった。医師が特殊な器具を用いてまぶたに二重のラインを作り、「埋没でやるとこんな感じですね」と見せてきたその目は、どう見てもギリギリ奥二重でしかなかった。それもまぶたの重みでいつか取れてしまうのではないかというほど、元の目からの変化はほとんど見られない状態だった。
私の希望は「すっぴんでは眠たそうに見えるほどの平行二重」だった。しかし埋没法ではそれは叶わない。でもどうしても整形はしたい。目を大きくしたい。そうすれば自分は幸せになれると思いこんでいたからだ。
同伴してくれていた母に泣きついてお金を出してもらい、埋没法よりもずっと高価だった脱脂・二点どめの手術をその日に受けられるようになった。嬉しくて嬉しくてたまらなかった。これで自分は綺麗になれる。もうブスと言われることもない!意気込んで手術台に臨んだ。

手術は滞りなく終わった。手術そのものは麻酔が効いているから何ともないが、その麻酔が本当に痛くて、今思い出しても恐怖するほどだ。まぶたの裏側に注射されるあの痛みは忘れられそうにない。それから、手術が終わったばかりの私のひどい顔を見たときの、母の何とも言えない表情。あれもまた、いつまでも忘れられない。

だけれど、整形をして良かったと心から思っている。
暗かった性格が一気に明るくなった。人の目を見て話せるようになった。他人から好かれるようになった。彼氏も出来た。友達も増えた。それらはすべて、私の見た目が良くなったからだと思っている。
人の価値は見た目で決まると思っている。歪んで凝り固まった、虚しい思考だと他人から思われようと、その考えを変える気はない。変えられるような出会いがあるなら望みたいくらいだ。
まったく同じ性格・年齢・生活状況の女二人が居て、ブスから告白されるのと、美人から告白されるのと、どちらが嬉しいか?助けを求められたらどっちを選ぶか?そんなの、答えは分かり切っている。
私は他人から愛されたいし、求められたいし、助けて貰いたい。そうやって生きていきたい。

これから先もしもMに対面することがあるとしたら、私はあの日の「ブス」が忘れられないということを言うつもりだ。そんなことを今さら言われてもと迷惑に思われるかも知れないが、私はそんなことでもう十年以上苦しめられ今でも心を病んでいるのだから。